「ナトラ」2003.05号 臨時増 NO27 P-55
限定駅弁図鑑(7)あじ寿司
文:小林しのぶ
写真:斉藤 正
蓋を開けただけで、その弁当が『本物』だとういうことはすぐに分かった。色、ツヤ、厚みとほのかに漂う塩漬けの桜葉の香り――豪快なその風貌は、
漁港近くの定食屋で食べる「アジ丼」をイメージさせる。
名物「あじ寿司」が修善寺駅に誕生したのは今から4年前。それまで駅前で ご主人とともに寿司屋を営んでいた武士ひさ子さんが、当時のノウハウを生か
して考案した自慢の逸品えある。使用するアジはその日に伊豆近海で揚がっ たものに限定。鮮魚店が毎朝アジを届けてくるが、身のしまりが悪いものは一切使わない。
塩をふって約40分おき、酢で約10分しめるだけのシンプルな調理法だが、しめ具合はアジの状態を見て秒単位で変えていくという職人技だ。
「アジを生かすも殺すもしめ具合で決まります」という「あじ寿司」は、ひさ子さんのいわば専売特許。誰にも作らせないという。元寿司店の女将が見せる絶対の自信とこだわりだ。
松崎の特産である桜葉の塩漬けと生レモンも、見逃せない名脇役。ご飯とアジの切り身との間に桜の葉をしのばせるだけで、香りと風味が加えられる。生レモンは、味をひきしめシャープにするのに欠かせない。福井県の専門店から特注で取り寄せる和紙を使った弁当箱も高級感を引き立たせている。
はじめて食べる駅版絵の蓋を開けるときの、心はずむ期待感。伊豆の温泉駅で出会った名物が、駅弁の魅力を再確認させてくれた。